三鷹獣医科グループ

猫

動物別情報


猫の大動脈血栓栓塞症

その症状とは?

  1. ある日突然に強い痛みが特徴!発症します
  2. 急に呼吸困難となります
  3. 口を開け苦しがります
  4. 腰が抜けたようになります
  5. 前足を突っ張ってもがいたりします

この病気はまことに不幸な病気で、ほとんどが、ある日突然に強い痛みとして発症します。急に呼吸困難となり、口を開け苦しがります、そして腰が抜けたようになります。猫が急に呼吸困難となり、立てなくなったらこの病気を疑います。前足を突っ張って、もがいたりすることもあります。とにかく、原因に思い当たることなく、多くが何の前触れもなく、何が起ったのかまったくわからずに、急に苦しがることでわかります。比較的に珍しい病気で100頭中、2-3頭の割合で起こります。

原因は大動脈血栓栓塞症という状態が起こり、大動脈という血管に血栓が詰まるために起こります。前触れはあまりなく、あるとすれば、休んでいるのに、急にハアハアする、なにか腰がふらふらする事があるぐらいです。まれに高い所から落下し外傷にしては症状が重度すぎるのでどうもおかしい?ということで専門病院に転院したら、この病気だった例もあります。まれに腫瘍や感染でも起こります。この病気は早期に発見し早期に治療することが必要な病気です。特に夜間に発症することが多いようで、普段から夜間の動物病院を探しておく必要のある代表的な病気です。また、この病気は特殊な病気なので、特別に猫の心臓病に関心のある動物病院でなければ、重症例は特に取扱いがむずかしいと思われます。

この病気の起こりやすい猫の種類はあまり特定されていません。アビシニアン、アメリカンショートヘアー、メインクーン、ノルウェージャンフォレストキャット、ラグドール等の純粋種、日本の雑種猫をはじめ、すべての猫に起こります。

その診断は?

診断は比較的、容易です。体のまん中にある血管の大動脈が腰のあたりで詰まるので、その後のところに血管が通過しなくなるので、後ろ脚が麻痺してしまうのです。

猫の大動脈血栓栓塞症の代表的な10の症状

  1. 急に苦しがる、もがき苦しむ
  2. 急に歩けなくなる
  3. 後肢が麻痺する
  4. 開口呼吸、呼吸が早い
  5. 後肢の爪を切っても出血しない
  6. 後肢が冷たくなる、体が冷たい
  7. 後肢の股動脈の脈が感じない
  8. 心臓の音が乱れる
  9. 後肢の筋肉が硬くなる
  10. 急に元気がなくなる

後肢の爪を切っても出血しないのは血が通っていないためで、ほとんど出ません。また肉球部(パッド)の色が白くなります(黒色の肉球部の猫はわかりません)。後肢が冷たくなるのも血が通わなくなるからです。後肢の股動脈の脈が感じないのも同じ理由です。心臓の音が乱れるのは、この大動脈血栓栓塞症の元の病気は心筋症といって、心臓の筋肉の病気なのです。人間では難病に指定され、心臓移植の必要な場合もあります。猫に於いて現在は心臓移植の報告はありません。この病気は心臓の筋肉があまりうまく動かなくなり、雑音が出たり、血液の動きが悪くなって、血が固まって血栓となったり、そして大動脈にいって詰まったりします。後肢の筋肉が硬くなるのは、動かなくなるので、筋肉が萎縮するためです。

血栓栓塞症とは何ですか?

血栓とは、心臓内や血管内で形成された凝血塊でこれや他の異物が血管内に詰まった場合に栓塞症が起こります。ゆえに強い痛みが生じます。

その予後は?

【予後の因子】

体温

  1. 37℃以下の死亡率は50%以上
  2. 36℃以下は死亡率は60%以上
  3. 35℃以下は死亡率は70%以上
  4. 34℃以下は死亡率は80%以上
  5. 33℃以下は死亡率は90%以上

治療が遅れた場合(理想的には発症後6時間以内)

  1. 再発例、特に予防薬を投与している場合
  2. うっ血性心不全が悪化している場合(呼吸困難がより重度)
  3. 左房内に大きな血栓がある
  4. 純粋種?

症状によってかなり違いますが、予後一般的にはかなり悪いものです。その程度によって違いはありますが、最終的には30-70%以上死亡します。急性の重度な症例では、きわめて難しいものです。症状が軽い程度のものでは、治療すれば、かなり生きることが望めます。それには後肢の片足のみ麻痺が起きた場合が含まれます。この場合は75%以上は生き伸びる可能性があります。しかし生き延びた75%のうち50%は、その予防の薬剤を飲んでいても再発します。重症例で生き延びた場合の予後は平均でも1年前後です。

その治療法は?

猫の大動脈血栓栓塞症の代表的な7つの治療

  1. 酸素吸入しながらの点滴療法
  2. 低分子ヘパリン療法
  3. 疼痛緩和療法
  4. 心筋症の治療
  5. 血栓溶解療法(t-PA治療)
  6. 不整脈の治療
  7. ヒルロイド療法

特に重症例では入院しての24時間管理が必要です。ゆえに24時間管理する人がいる動物病院が望ましいのです。問題は非常に高価な薬剤である血栓溶解療法(t-PA治療)を行うかどうかです。猫の場合は、使用するなら理想的には6時間以内(人間の脳梗塞の血栓溶解療法の適応は4.5時間)に、遅くても12時間以内?には行う必要があります。この薬剤は人間の脳梗塞の際に用いられる薬剤です。非常に高価な薬剤ですので、動物病院でも猫の専門医療や心臓病に特に関心のある動物病院でなければ、これらの薬剤は用意されてないと思います。

その他、利尿剤(フロセマイド、スピロノラクトン)、βブロッカー(アテノロール、カルベジロール)とCaチャンネルブロッカー(ジルチアゼム)ACE阻害薬(ベナゼプリル、エナラプリル)等、血栓の予防薬としてはクロピトグレル等と治療はいろいろありますが、どれも決定的なものではなく、特にヘパリン療法では、6~8時間ごとに3~4日間、脈がでるまでくり返すが、血液凝固能力検査が必要となります。急性の例では、いかに疼痛を防ぐかによります。
現在では外科手術による血栓の除去は推奨されていません。血栓溶解療法(t-PA治療)も完全には推奨されていませんが、特に予後の悪い症例においては専門機関では行われることが多い治療法です。私たちの動物病院でも積極的に治療を行っています。